浮世絵今昔~コラム

  • おすすめ作品 『堪忍袋緒〆善玉(かんにんぶくろおじめのぜんだま)』 2025年4月1日おすすめ作品 『堪忍袋緒〆善玉(かんにんぶくろおじめのぜんだま)』
    善玉悪玉の元祖が善悪の教訓を楽しく表現蔦重と京伝が作った傑作の草双紙 下の画像は堪忍袋緒〆善玉の冒頭の絵だ。 現代でもありそうな、編集者と作家のやり取りを描いた作品です。 山東京伝の自宅に原稿取りに訪れている蔦屋重三郎。左の机に座っているのが京伝(京伝鼻が可愛い)。お茶を出しているのが京伝の妻お菊です。蔦屋の紋付で判りますが、右に座るのは蔦重です。 このページでは蔦重が「たとえ足を擂粉木(すりこぎ)にして通って、声をからし味噌にして~云々~先生の善玉悪玉の作を願わねばならぬ」と京伝に催促してるシーンです。画を描いているのも山東京伝(北尾政演)です。 京伝作画の黄表紙(きびょうし)『堪忍袋緒〆善玉(かんにんぶくろおじめのぜんだま)』(寛政5年〈1793〉刊。蔦屋重三郎版)より。浮世絵カフェにオリジナル在庫あり。 『堪忍袋緒〆善玉(かんにんぶくろおじめのぜんだま)』江戸時代後期の文化や社会情勢を映し出す人気の草双紙です。この作品では、善悪の心をテーマにした教訓本としての役割をもっており、表現が規制された寛政の改革下で出版業にとっては厳しい社会背景の中で執筆されました。 [ストーリー] 善と悪の象徴である「善玉」と「悪玉」が人間の心を巡って対立するストーリーです。悪玉は男たちに悪行をそそのかし、彼らの道徳心を揺るがそうとします。その一方では善玉はその行動を阻止し、心の改悛を促します。男の心理では善悪の葛藤を通じて、人間の道徳観をはかり最終的には善行の重要性を説くながれになっています。 悪玉が男を誘惑する。善玉が引き留めている図。軽妙なタッチで目玉のおやじのようなキャラクターは人気になった。この後「悪玉踊り」が流行した。 本作品では寛政の改革期における社会的な教育方針、質素倹約の強化の流れと連動しています。田沼意次の失脚以降に松平定信は社会の秩序を維持するため、出版物にも厳しく監視の目をむけています。黄表紙でゴシップ的な話題をテーマにするよりも、『堪忍袋緒〆善玉』のような教訓的なテーマを持つ作品が支持されたのです。ただの教訓だと面白くないので、蔦重と京伝は面白い挿絵とストーリーを考えて読者を惹きつけたのでしょう。ある意味では寛政の改革だから生まれたのが「堪忍袋緒〆善玉」だったのかもしれませんね。 堪忍袋緒〆善玉のオリジナル(複製ではありません)が浮世絵カフェでは常設展示されています。
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