【大河ドラマ~べらぼう】第41話

「ババア」から「おっ母さん」へ。初めて明かされた、蔦重が捨て子になった真相

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国書データベース
三国通覧補遺(さんごくつうらんほい)
弘前市立弘前図書館
林子平

おっ母さん―。大河ドラマ「べらぼう」41話では、これまで蔦重が「ババア」呼ばわりしていた実の母・つよに向かい、初めて「おっ母さん」と呼ぶシーンなど、数々の名場面が見られました。ドラマの冒頭では、蔦重を吉原時代から支援をしていた書物問屋・須原屋が「身上半減」の処罰を受け、引退を決意するシーンが描かれました。処罰を受けた理由は、朝鮮・琉球・蝦夷の風俗などを解説した、林子平の「三国通覧図説」を販売したから。林子平は、オロシア(ロシア)が日本に攻め寄せる可能性を書いた「海国兵談」の著者で、この本は幕府に不安をあおる不穏な書物と見なされ禁書になっていました。しかし、須原屋は蔦重に「知らねえってことはな、怖いことなんだよ。物事知らねえとな、知ってるやつにいいようにされちまうんだ。本屋ってのはな、正しい世の中のために、いいことを報せてやるっていう務めがあるんだよ」と語ります。そして、蔦重にこの想いを託しました。この言葉は出版物に携わる人間にとって最も重要な言葉ですが、最近はよく「マスゴミ」という言葉を聞きます。偏向報道に対する痛烈な批判の言葉ですが、個人的にもオールドメディアの報道には首をかしげたくなる情報が多く見られるように感じます。一方、ソーシャルメディアの中にも偽・誤情報が満載ですので、「権力者の思惑にも、個人の偏見にも左右されない、正しい情報の発信」ということをあらためて意識させられるシーンでした。また、41話では出版物に画期的な技法による新たな表現が加わり、そちらも見どころの一つとなりました。

一つは、喜多川歌麿の美人大首絵に使われた雲母摺(きらずり)です。雲母摺とは、天然鉱物の粉を用いて、背景に独特の光沢を持たせるものです。雲母は光源の角度を変えることで画面の輝きを変化させたり、奥行きを感じさせる効果があり、平面的な作品ばかりだった浮世絵に大革命を起こしました。また、蔦重の妻・ていの提案で企画された「女性にもうける本」では、書家・加藤千陰による美しい書の本「ゆきかひぶり」が出版されましたが、背景を黒地に白抜き文字で表現され、書体の美しさをより強く引き出していました。そして今回、最大の名場面となったのが、蔦重が両親に捨てられた真相が語られた、髪結いのシーンでした。これまで、蔦重は両親が共に愛人を作った末に捨てられたと信じこんでいました。しかし、実際は父が博打で作った借金を原因に江戸から逃げざるを得なくなったものの、逃亡先の生活に不安があったため、幼かった蔦重だけは駿河屋に引き取ってもらえるよう頼んで吉原で育ててもらうことに。しかし、借金取りが蔦重のもとへやってくる可能性が考えられたため、口が裂けても自分達を親だと言いたくなくなるように、両親は色狂いで子を捨てたことにしたと説明されました。子に類が及ばないように断腸の思いで子を他人にあずけた、親の苦渋の決断があったというわけです。このシーンの後、蔦重は初めて「おっ母さん」と口にし、仕事で尾張へ旅立ちます。しかし、41話ではつたが咳込むシーンが何度も見られたので、これが親子の今生の別れになるかもしれませんね。