当世踊子揃・鷺娘(とうせいおどりこぞろえ さぎむすめ)

江戸複製木版画~劣化も忠実に再現した逸品!

出典 東京国立博物館

限定10部で制作販売します。

喜多川歌麿が描いた「鷺娘(さぎむすめ)」は、江戸時代中期に大変人気のあった歌舞伎舞踊「鷺娘」を題材にした浮世絵です。この演目は、白鷺の精が美しい娘に化身し、恋の叶わぬ苦しみと未練を訴えながら雪の中で消えていく幻想的な物語で、観客の涙を誘いました。

歌麿が「鷺娘」を描いた制作年ははっきりしません。天明期(1780年代後半~1790年代初頭)と推測され、蔦屋重三郎から刊行されました。これは、歌麿が美人画に転じる前、役者絵の分野で高く評価を得ていた時期の代表作です。

この浮世絵には、白無垢の衣装をまとい、雪が降りしきる中に立つ娘が描かれています。頭には白鷺の冠を戴き、袖を大きく広げ、儚げに視線を落とすその姿は、舞踊の幽玄な気配と哀切を巧みに写し取っています。歌麿は役者の顔立ちを理想化しつつ、舞台の緊張感や美しさを柔らかい輪郭線と淡い彩色で表現しました。この理想化された女性美は、後の美人画の方向性を先駆けて示しています。

この作品の制作には高度な分業技術が関わりました。まず、彫師の精緻な作業が欠かせません。歌麿の繊細な筆致を版木に写すために、刀の角度や力を巧みに調整しながら線の強弱・太細を刻み分けます。白無垢の衣の柔らかなひだ、雪の舞う背景の細密な線、毛割に執拗なまでにこだわり髪の一本一本まで、彫師は歌麿の下絵を忠実に再現しました。とりわけ、衣の柄や白鷺の羽根部分では、線にわずかな抑揚をつけて立体感を演出しています。

次に摺師の手腕が重要です。白の表現には胡粉(白色顔料)を用い、さらに雲母摺(きらずり)によって、光を受けるときらりと輝く効果を与えました。背景の雪景色には「ぼかし摺り」を用い、奥行きと情感を醸し出しています。これらの表現を完成させるために、重ね摺りし、微妙な濃淡を調整しました。和紙が湿気や顔料で伸縮するため、摺師は「見当」という位置合わせの目印を使い、一版一版を寸分違わず正確に重ねています。

本図は、役者絵としても貴重です。当時の人気女形、五代目岩井半四郎などが演じる姿をモデルにしたともされ、所蔵品によって絵の隅に役者名や役名が記される場合もあります。浮世絵が単なる美術品にとどまらず、芝居の宣伝や役者の人気を高めるメディアとして機能していた証でもあります。

現在、歌麿「鷺娘」を所蔵する機関としては、大英博物館(British Museum)メトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art)国立劇場伝統芸能情報館などが知られています。特に大英博物館所蔵の大判錦絵は保存状態も良好で、白無垢のきら摺の効果が確認できます。また、メトロポリタン美術館の収蔵品は、役者の名前が明記されており、歌舞伎史の研究資料としても価値が高いです。

【まとめ】

喜多川歌麿「鷺娘」は、絵師の卓越した美意識、彫師の精緻な技、摺師の巧緻な彩色技法が一体となって生まれた傑作です。白装束の娘が雪の中に立つ姿は、恋の哀しみと幽玄の美を併せ持ち、江戸の人々に深い共感を呼び起こしました。今日もなお、その洗練された気品ある美しさは多くの人の心をとらえ、浮世絵の魅力を語る上で欠かせない作品となっています。

 浮世絵カフェ蔦重の復刻木版画は東京国立博物館の蔵書を忠実に複製した作品です。ボストン美術館の所蔵と比較して、この所蔵品は左側の雲母刷りやタイトルに劣化がありました。その欠けた部分を忠実に再現することで新品の木版画にも関わらずクラシカルな雰囲気も愉しめる逸品となっています。復刻木版画の多くは摺師が劣化部分を修正して販売することが多いのですが、あえて本作は劣化も含めて複製しました。

台東区の彫師・摺り師の職人技を是非手に取って愉しんでください。限定10部だけ複製制作販売いたします。


【大河ドラマ~べらぼう】第25話

耕書堂VS地本問屋連合の戦いがついに終戦。
灰に染まった町から、新たな耕書堂がスタート!

出典 国書データベース

耕書堂がついに日本橋へ―。大河ドラマ「べらぼう」25話では、耕書堂が夢の日本橋進出を果たし、同時に蔦重は“てい”と結婚。これを機に地本問屋連合との戦いにも終止符が打たれ、正式に地本問屋仲間に迎え入れられました。ドラマではまず、丸屋を買い取った問屋・柏原屋が蔦重のもとに、店(丸屋)を買わないかと話を持ちかけます。当然、蔦重はすぐに話に乗りますが、一つ大きな壁がありました。それが、前話でも問題となっていた、吉原の者は見附内に家屋敷を買えないという決まりでした。この問題を解決するため、蔦重は須原屋市兵衛と連れ立って田沼意知のもとを訪ねます。そこで持参したのが、松前家の抜け荷の証拠となる蝦夷地の地図で、この地図を引き渡すことを条件に、蔦重が日本橋で店を開けるよう願い出ます。意知はこれを快諾し、蔦重はようやく日本橋通油町の丸屋を手にすることができました。しかし、敵対していた日本橋の地本問屋連合との対立は変わらず、丸屋の女主人・ていの心も閉ざされたままでした。そこで、蔦重はなんとか日本橋と仲良くできないかと思案します。そんな折、浅間山の大噴火が起こり、江戸の町にも大量の灰が降り注ぎました。突然の灰に江戸の人々は大混乱となりましたが、このやっかいな灰を手に、蔦重は「こりゃあ、恵みの灰だろ…」と笑みを浮かべます。

灰が降り注ぐなか蔦重は丸屋へ向かい、ていに店の売り渡し証文を見せ、一緒に店を守ろうと呼びかけます。しかし、ていは拒否して店の戸を閉めて中に籠ります。そこで、蔦重は店の屋根に上り、花魁たちの古着で屋根を覆い、瓦の隙に灰がたまらないにして店を守ろうとします。さらに、日本橋通油町の灰を除去するため懸命に働き、敵対していた地本問屋のリーダー格・鶴屋の主人とも一緒に汗を流し、互いに賞金をかけて競争しながら遊び感覚で灰を除去し、町の人々の心もつかんでいきました。この蔦重の姿に接し、ていの心も徐々に融解。二人はめでたく結婚します。そして、結婚式には鶴屋も駆け付け、お祝いの品として暖簾をプレゼント。「この度、通油町は楽しく灰を始末することができました。蔦屋さんのすべてを遊びに変えようという、吉原の気風のおかげでございます。江戸一の利き者、江戸一のお祭り男はきっとこの町を一層盛り上げてくれよう。そのようなところに、町の総意は落ち着き、日本橋通油町は蔦屋さんを快くお迎え申し上げる所存にございます」と頭を下げました。これにより、新生耕書堂はめでたく新たなスタートを切りましたが、史実では、浅間山大噴火による火山灰が冷害を引き起こし、農作物にも壊滅的な被害を生じさせ、田沼政権の運営にも影を落としました。そして、蔦重にも…。今後、これまでとは比べ物にならない、大きな試練に立ち向かわなければならなくなるはずです。