おすすめ作品 「風来六々部集 前編下 飛花落葉」

江戸一のアイデアマン平賀源内のコピー集
あの名コピー「歯みがき漱石香」を全文掲載

平賀源内は多才なアイデアマンであったと同時に一流のコピーライターでした。「土用丑の日はウナギの日」のキャッチコピーは、源内のアイデアというのが通説です。今回の「風来六々部集」に紹介されているのは、「大河ドラマ~べらぼう」第二話で蔦重と花野井(のちの瀬川)が読んでいた「嗽石香(そうせきこう)」という歯磨き粉発売の引札に書いてあった広告コピーです。(ひきふだ:宣伝チラシのこと)その内容は芝居口上で「はこいり歯みがき漱石香、歯をしろくし口中悪しき匂ひをさる」と案内しています。浮世絵カフェでは明治17年に制作された「風来六々部集」を常時展示しています。

 

平賀源内の肖像。通人に好まれた文金風の髷。男色家としても有名だったがエレキテルの修正販売や、鉱山開発を手掛けつつ狂歌もたしなむ多彩な才能に恵まれた。しかしながら最後は獄中死であった。


1769(明和6)年、平賀源内は恵比寿屋兵助の依頼で引札「嗽石香(そうせきこう)」の宣伝文を書きました。源内は有名人でしたが浪人の身分だったので藩からの固定収入はなかったようです。収入を得るために、鉱山開発に始まりエレキテルで見世物をだしたり、戯作を書いたりと版元の依頼に応じて執筆したと思われます。

日本の最初のコピーライターは平賀源内であるといわれています。
「風来六々部集 飛花落葉」という宣伝集があります。これは1783(天明3)年、源内の死後、引札文だけを集めて編纂されたものですが「嗽石香」のコピーはこの中に掲載されています。

嗽石香の引札にあったコピー全文

浮世絵カフェ 蔵書

【ストーリー】
「トウザイ、トウザイ」・・・私住所の儀(てっぽう町裏店の住人 川合惣助元無:源内自身)、八方は八つ棟作り四方に四面の蔵を建てようと思っているのですが、私は商いの損相つづき、困っているところに、さる御方が元手のいらぬ歯磨き粉の販売を教えてくれました

隠すのも野暮なので、ぶっちゃけバラしますが、防州の砂に匂いを付けたもの、教え通りに薬種を選び念入りに調合しました。歯を白くするだけでなく富士の山ほどの効能があると聞きました。しかし、効くのか効かぬか、私にはわかりません。でも、たかが歯磨き、ほかの効能なくても害も無いでしょう。今回は20袋分を1箱に入れています。使い勝手が良いので、たくさん安く売って利益を上げようと思っているところです。正直言うとお金が欲しさに早々に売り出すことにしました。お使いになって万一良くなく、捨ててしまっても、たかが知れた損でしょう。私の方はちりも積もって山となります。もし良い品とご評判いただけば表通りに店を出し、金看板を輝かせて今の難儀を昔話としましょう。  

てっぽう町裏店の住人 川合惣助元無(源内の匿名)売弘所 恵比寿屋兵助」

源内は本音をさらけ出すことで、むしろ江戸っ子たちの洒落心をくすぐる、テンポの良い引札を複数書いています。

 蔦重はこのような威勢よく面白い引き札をたびたび見たのでしょう。吉原細見で序を平賀源内に依頼したのも納得できますね。

[題名] 風来六々部集 (ふうらいろくろくぶしゅう)前編下 飛花落葉(ひからくよう)
[著者] 風来山人(平賀源内)
[編] 大田蜀山人
[版元] 〈東亰〉内田/芳兵衛
[発行年]安永9年序~天明3年の作品を蒐集編集。
浮世絵カフェの蔵書は明治17年の再販本
[仕様] 木版本 17.3×11.6cm  総六十丁
[概要]
江戸後期の狂文集。二冊六編からなる。風来山人(平賀源内)の作。安永九年(1780年)刊。明和・安永年中(1764年から1781年)に発売された六編の戯文を集められた書。「放屁論」「痿陰隠逸伝」等。